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Amazon、ヤマト、佐川、日本郵政、ドローンによる無人配達や「当日配達」「送料無料」を巡る駆け引き、ドライバー不足で「ものが届かない」、「買い物難民」を防ぐネットスーパーの取り組み。いま、物流の世界で何が起きているのか。「物流を制するものがビジネスを制する」といわれるほど、その動向に注目が集まる現代の物流の実態と課題について、日本はもちろんのこと、「ネット通販先進国」であるアメリカの物流事情も含めて論じた書籍。

当日配送を巡る攻防

いま、ネット通販のラストマイルで重要なキーワードとなっているのが当日配送だ。我々消費者は、商品の選択に時間をかけたとしても、購入を決めた後は、できるだけ早く手に入れたいと思うものだ。こうした消費者の満足度を満たすことができれば、ネット通販事業者は当日配送によって差別化をはかれる。企業が当日配送を積極的に推し進める理由は他にもある。それは、返品の防止である。当日配送で素早く届ければ、購入者が類似した別の商品の購入を考えたりする時間的余裕を与えずにすむからだ。僕自身の経験則でも、購入した商品よりより良い商品を見つけたが、すでに配送手続きが完了していたなんてことはザラだ。当日配送以外のニーズとしては時間指定や注文した商品を束ねて持ってくるなどというものがある。心待ちにしていた商品は宅配BOXでなく直に受け取りたいので、時間指定についてももっとピンポイント(30分刻みとか)で指定できれば家での待機時間が短くで済む。

荷物が届かない

2014年4月、消費税が5%から8%に引き上げられるとその駆け込み需要で輸送に大きな混乱が生じた。幹線輸送のトラックの運賃が2倍になったとも言われておりドライバー不足は深刻だった。2014年初頭までトラック運賃が継続的に低下していて運賃が増えない中で、トラック運送業社が負担するコストは増加していった。製造業や建設業が賃金アップしていく中、ドライバーの賃金は低下していく。賃金が低下しただけでなくドライバーの長時間労働も追い打ちをかけた。ちなみに、製造業の賃金を100とするとドライバーの賃金は2001年が90、2014年には81となっている。運送業に労働力が集まらない理由として「賃金が安い」「賞与・一時金が少ない」「退職金が少ない、退職金制度がない」といった給与に対する指摘と「深夜・早朝などの不規則労働が多い」「休日が少なすぎる」「労働時間が長すぎる」といった労働時間に関するものが上位を占めている。こういったドライバー不足を解消するため、「トラガール」などという女性ドライバーの呼称作ったが、イマイチ浸透していない感が否めない。参考までに2014年度の女性ドライバー比率は2.4%と非常に低い。

買い物難民の発生

居住している周辺のスーパーなどの小売店が潰れたり、住民自身が低所得で生鮮食品などの購入が困難になる。こういった「買い物難民」が高齢者を中心に増えている。ネットスーパーはこういった「買い物難民」の救世主たなりうるのか。現在40〜50代のほとんどはインターネットに慣れ親しんでいるので、こうした層がやがて高齢者になれば、需要はますます高まるだろう。物流コストがかかる分普通のスーパーより値段を高くするか送料を別途負担するかしなければならない。オムニ7の配送料無料基準は3,000円(税込3,240円)以上 ※セブンネットショッピングは1,389円(税込1,500円)以上。Amazonでは、プライム会員(年間3,900円)は当日翌日配達のお急ぎ便が無料となっていて各社物流コストと戦っているのが目に見える。

普段当たり前のように享受している物流サービス。消費者が便利になる一方で、運送業の賃金低下やドライバー不足といった業界の実態を知ることができた。ネット通販やネットスーパーは便利だが、ネットを使えなくなった時のことを考えちょっと不安になった。