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今を生き、これからの時代を担う若い世代。18歳選挙権で新たに240万人が選挙権を得る。新しい時代の幕開けとともに課題と可能性についてまとめつつ18歳選挙権制度が社会に及ぼす影響と、その変革の可能性について考えていく。長きにわたり教育の現場に携わってきた著者が、中高生の政治教育を阻む政治的中立性の壁、「模擬選挙」の実状、そして本制度による若者の政治参画への展望に関して、分かりやすく解説する書籍。

学校における「政治教育」への注目

「政治教育」の多くは、知識偏重・暗記中心だったという人も多いだろう。新聞の切り抜きやスクラップブックの作成、調べ学習、ディベート、3分間スピーチ等の授業を行っている先生方もいるそうだが、僕にはそういった授業の記憶がない。政治への関心も少なく、恥ずかしながら選挙に行くようになったのは30代になってからだ。

とはいえ高校生が有権者になるという18歳選挙権においては、知識偏重・暗記中心の授業ではなく、政治的教養を育む教育を一層推進することが求められる。”賢い有権者” ”考える市民”を育てることが求められるということである。

18歳選挙制度の施行をきっかけに、これまで奨励されてこなかった「生きた政治」に触れる機会を子供のころより設け、主権者意識を育むための教育を行なうべきという立場を、文部科学省が明確にしたといえよう。

20歳代の投票率が、平均よりも20ポイントも低いことを考えると、新たに有権者になる18、19歳の投票率が急に高くなるとは考えにくいが、NHKの世論調査で「あなたは、来年夏の参議院選挙に行きますか」との問いに、「必ず行く+行くつもりでいる」が60.7%だったので関心の高まりが垣間見える。

SNSと18歳の政治活動選挙運動

2013年4月に公職選挙法が改正され、「インターネットを利用した選挙運動」が可能になり、選挙期間中のウェブサイトの更新、ネットを使っての投票呼びかけが可能になった。

具体的には、ホームページ、ブログ、SNS(ツイッター、フェイスブック等)、動画共有サービス(YouTube、ニコニコ動画等)、動画中継サイト(Ustream、ニコニコ生放送等)等の、電子メールを利用する方法を除いたツールでの選挙運動が可能になり、選挙運動ができる一八歳以上は、ツイッターやフェイスブックなどを通じて、自分が支持する候補者や政党について書き込むことができるようになった。

SNSでの選挙運動は、従来のものに比べて費用対効果が高いのが特徴で、ターゲットや居住地を限定した情報配信、街頭演説などの様子の動画配信、フェイスブックでの「いいね!」といった共感をシェアすることで仲間意識を高め拡散につなげるといった取り組みが行われている。

「政治的中立性」をふまえた積極的な政治活動を

18歳選挙権の導入をきっかけに、これまでの「何も教えないこと=中立性」というところから、「多様な考えや意見を紹介することを通して多角的に物事を捉え、考えを深化させる機会を創出すること=中立性」というように、「政治的中立性」の捉えかたが大きく変化していく。

学校などの指導現場では、政治的中立性を確保しつつ、現実の具体的政治事象も取り扱う難しい舵取りが求められる。2022年度からは高校の時期学習指導要領で新科目「公共」(仮称)の必修化が検討されている。選挙などの政治参加に加え、社会保障や契約、家族制度、雇用、消費行動といった社会で必要なことを学ぶ科目だ。

「模擬選挙」とは何か

アメリカのほか、ドイツやイギリス、フランス、スウェーデン、コスタリカなどでも選挙のたびに模擬選挙が行われており、学校や家庭など子どもたちにとって身近な場面で政治について話すことが当たり前になっている。「子どもだから判断できない」のではなく「子どもの視点で判断する」のが民主主義を学ぶ上で重要だ。日本では「政治」について話すと「ダサイ」「マジメ」「変な奴」「意識高い系」などといった受け止めかたをされてしまう。しかし、これまでに模擬選挙で投票した五万人以上の未来の有権者は、政治に対して向き合い自分の意見・考えをしっかり持っていた。こういったことに加え、模擬選挙は、国民の一人だと実感し、民主主義を体感でき、賢い有権者を育てる。そして、投票率のアップに繋がるなどのメリットがある。

18歳選挙時代を迎え、市民とは何か、主権者とは何か、有権者になるとはどういうことなのかを子供時代を通じて考える機会を持つことが不可欠だという著者の主張が日の目をみるようになった。