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若年層にテレビをまったく観ない人が増え、二極化し、テレビの視聴スタイルに変化が訪れている。テレビCMが効かなくなるという問題は、テレビ局だけの問題ではなく、広告主にも大問題だ。現時点でもやはりテレビCMの到達率は魅力である。本書では、あいまいだったテレビCMの効果効能を科学的に分析し、真のデジタルマーケティングに必要なデータと共に動画コンテンツのありかた、将来的なテレビCMのあり方について論じる。

テレビCMはブランドの文脈で

筆者が提起するのは、「テレビCMはブランドの文脈、オンライン動画はユーザーの文脈で」つくるべきだということだ。話を単純化すると「猫が大好き」で「可愛い猫の動画」をよく観ているユーザーにとって、「猫」は強く反応する文脈である。こういう要素分析を行い、ターゲットに強く刺さるクリエイティブを創出するのがオンライン動画の役割になるだろう。そして、テレビCMとオンライン動画の双方を視聴した時に(おそらくターゲットによって、視聴しているテレビCMは同じでもオンライン動画が異なる)、化学反応のようにブランドメッセージがより強くスパークすることを目標にするようになる。

データが取得できて、個々のユーザーの興味にそった形のCMがうてるオンライン広告とでは作り方を変えるべきというのはわかる気がする。それでもYouTubeの間に入る広告はまだまだ自分の興味とはかけ離れたものが多く流れてくる。どんなユーザーにどのようなCMを打つかは今後も課題となるだろう。

オンライン動画をつくってから、テレビCMをつくれ

企業の宣伝部には、「オンラインでターゲットの存在と、彼らが反応するメッセージ文脈を実証してから、その集大成としてのテレビCMをつくる」ということにぜひチャレンジしていただきたい。つまり、「コア・アイデア」を基に、いくつかのターゲットユーザー文脈でオンライン動画をつくることから始め、実際に広告配信によるユーザー反応を確かめてから、オンライン動画広告と相乗効果を創出する(科学反応を起こす)ようなテレビCMをプランニングして制作するというプロセスである。今までと逆である。この方法のいいところは、テレビCMをより科学的に最適化するプロセスになるということだ。「コア・アイデア」の反応や受容性を確かめてから、最もコストがかかり、かつ最大の効果を上げる可能性のあるテレビCMをつくることができる。これはデータからクリエイティブ・ブリーフを作成して、アイデアを創出するより、さらに精度が高いと言える。まずは、ターゲットユーザーに強く刺さる「文脈」によるメッセージ開発(動画開発)をいくつか行う。場合によっては、複数の「コア・アイデア」を試すということであってもいいだろう。オンラインで反応が良ければ、別にそのままテレビ CM 用にしても良いのだ。そして、ユーザー文脈でつくる複数のオンライン動画とブランドメッセージ(「What to say」)とが、最も整合性と相乗効果の期待できる「How to say」をテレビ CM 用として、最後につくり上げるのである。実際に制作された動画をベースにしたユーザーの視聴検証を経て行われるプロセスの成功率は、高いと思われる。映像や音声の中の細かいニュアンスに反応する要素がある場合(神は細部に宿る)が多く、実際に仕上げてみないと検証にならない。

オンライン広告とテレビCMの両者でうまい広告だなと思った中に、King Gnuの楽曲を使ったアルフォートのCMがある。オンラインで話題となり当初CMのために書き下ろされた楽曲の反響で、シングルリリースの要望が多かったため、リリースすることに。ミュージックビデオ風のオンライン広告から火が付くこれからの楽曲の売り方としては新しいものだと思った。

テレビCMとオンライン動画の組み合わせ

テレビCMが特に若年層に到達しづらくなっているため、デジタル広告で補完すべきであることは前述したとおりである。まず一つは、シンプルにターゲットリーチを補完しようということだ。しかし、テレビCMとオンライン動画を組み合わせる考え方はリーチの補完だけではない。二つ目に、ターゲットにおける有効フリークエンシーを補完することで認知効率を上げる、つまりは認知を補完するという考え方だ。テレビスポットの場合、どうしてもCM接触者はフリークエンシー過少とフリークエンシー過多に二極化する。これをできるだけ有効かつ適正なフリークエンシーに寄せるためにオンライン動画を組み合わせようという発想だ。この場合、有効かつ適正なフリークエンシーの視聴者を増やすためにオンライン広告を使うことになるが、一方でフリークエンシー過多の視聴者を少なくするためのスポット案を補正する必要もある。テレビCMとオンライン動画を合わせて、一定のコスト内でできるだけ「有効かつ適正なフリークエンシーで接触するターゲットを増やす」ことで広告認知の効率は上がるはずで、この組み合わせは「認知の補完」のためである。三つ目は、リーチ補完、認知補完ときて、より複雑になるが、態度変容を促す、つまり購買意向を促進するためのもので、これは補完ではなく相乗効果を生むという考え方になる。海外の調査でも、単に広告認知を促進するためなら、テレビCMとオンライン動画で同じ素材を使ったほうが、スコアが高くなる。しかし、特定のブランドメッセージ認知や購買意向を上げるためにはオンライン動画はテレビCMと別の素材を開発したほうがいいという結果が出ている。

自分御購買行動を振り返ってみるとテレビCMなんかより断然YouTubeなどの動画によるレビューなどがあげられる。要は使い分けなのだろう。

YouTubeなどの動画の登場からだいぶ経ちその効果も絶大となっている昨今、CMのあり方も変えていかないと物は売れなくなりますよという。テレビと動画のハイブリッドで攻めるCM戦略とは?