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共同通信社からテレビ朝日に転職。社会部・経済部の記者や「ニュースステーション」「報道ステーション」のディレクターを務めた著者が、自らの体験を基にテレビの報道現場の内情を克明に記す――テレビ記者はなぜ記者会見で答えのわかりきった質問をするのか?/なぜ負傷者もいない火事や動物絡みのニュースがよく流れるのか?/報道現場に圧力がかかることはあるのか?/局員と制作会社のスタッフの間の溝/コネ入社の実態など。

とくダネって一体なんだ?

乳酸菌飲料メーカー「ヤクルト本社」のデリバティブ(金融派生商品)運用失敗による巨額損失が表沙汰になったあと、巨額損失を発生させた熊谷直樹副社長(当時)が、運用を任せていた外資系証券会社「クレスベール証券東京支店」の瀬戸川明会長(同)からリベートを受け取っていた疑惑が浮上した。 99 年秋、私はクレスベール証券が営業用に作成した、虚偽の説明だらけのペーパーを入手。特ダネとして出稿すると、クレスベール証券はこれを受けて兜倶楽部で記者会見を開き、私の記事の内容を認めた。この会見に出席するために兜倶楽部に出向いた私は、会見場の外でたまたま出会った顔見知りの民放局の記者から「ペーパーをお持ちだったら、もらえませんか」と頼まれた。ペーパーをコピーさせて、解説まで加えてあげたのだが、この記者はそれでもやはり会見の席で分かり切ったことを一から質問していた。 「せっかく解説までしてやったのに、何で今さらそんな質問するんだよ」  私は胸の中で何度も毒づいた。だが、通信社の記者である私が「くだらない」「恥ずかしい」と思っていた基礎的な質問は、実は民放局にとってはどうしても聞かなければならない必須のものだった。2000年7月、テレビ朝日に転職した私は、すぐにそのことを思い知らされることになる。

記者会見などでの記者の質問ってセンスでるよね。わかりきったこと、でも視聴者が聞きたいことを安定して聞いて何も引き出せない人がいる。その一方、変化球を投げてうまいことコメントを引き出せる人もいる。その変化球を持っているかどうかが記者の優劣なのだろう。

民放報道との出会い

テレ朝では社内で働いている約3800人のうち、テレ朝の局員は約1100人。残る約2700人は系列の会社の人たちなのである。カメラクルーだけでなく、ニュース映像を編集する編集マンや、ニュース番組の進行管理を受け持つタイムキーパーも全員が系列のプロダクションの社員なのだ。さらには、夕方の『スーパーJチャンネル』(SJ)や夜の『ニュースステーション』(Nステ)で、ニュースの構成を書き、編集作業に立ち会うディレクターたちも、ほとんどが系列や外部のプロダクションに所属している社員だった。そして、これは今後の章で明らかにしていくが、系列や外部のプロダクションからテレ朝に来て、局員と一緒に働いている彼らは一様に優秀で一生懸命。いわば有能な職人集団だった。これは何もテレ朝に限ったことではなく、民放局全体が同じ構図だった。民放局内では誰一人として疑問に思わない至極当たり前の状況が、全く違う文化の共同から転職してきた私にとっては、素直に大きな驚きだった。

テレビ局で働く人のうちかなりの数が系列会社の人というのは意外だった。カメラマンとかタイムキーパーは局の人間だと思っていたがそれすらも系列プロダクションの人間だという。それでもうまく組織が回っているのだから面白い。すり合わせやなんかを局外の人間と連携してやるんだから、面白い世界だ。派遣社員が多い企業と同質なのだろう。

「オンエアD」って何?

テレビ番組のスタッフには「オンエアディレクター」(通称「オンエアD」)という重要なポジションがある。準備されたVTRを決められた順番通りオンエアして不体裁を起こさないようにする仕事だ。番組中はニューススタジオの副調整室(Nサブ)の真ん中に座り、キャスターが各ニュース項目のリード原稿(VTRに入るまでの頭の部分)を読み終わったタイミングでVTRをスタートさせ、何本かに分割されているそのニュース項目のVTRを滞りなく切り替えていく。NサブにはオンエアDの他にも音声担当や、オンエアDがスタートさせたVTRを実際の放送に反映させる報道技術部門の局員もいて、オンエアDはこうした技術系の局員との連携が重要だった。NステのオンエアDは一般ニュースのディレクターが受け持つ仕事だったが、全員の持ち回りというわけではなく、夕方までロケに出ていたりしてその日のニュースのVTR編集に関わっていないディレクターが受け持つのがお決まりのパターンだった。ただ、番組の最中は基本的にNサブに入りっぱなしでリラックスする時間もなく、夕食の弁当を食べる時間もない。それになぜか暗黙の了解として、局員ディレクターはやらなくていいことになっているらしかった。

僕らが普段目にするテレビ番組はすごく細かな役割分担がなされた人材配置で成り立っていることがわかる。仕事に内容も様々。

最近ではテレビでは放映できないような内容のものをYouTubeでみたりもするが、やはり比べてみるとテレビはうまく作り込まれている。テレビがつまらなくなったと言われて久しいが、その他のメディアと共存してはじめてテレビの良さが際立つのではないだろうか。