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愛するとは、自分に誠実に生きることである。7歳で失明、18歳で天涯孤独となり、28歳で自殺未遂。その後、日雇い労働者として放浪の生活を送り、独学で哲学者を志す――。本書は、アメリカで大きな反響を呼んだ哲学者エリック・ホッファーの人生に学ぶ一冊である。日本人は自分を愛するのが下手であるような気がしてなりません。そのせいで、つい自分を責めてしまったり、やりたいことが見つからなかったり、他人と比較してしまったりするのです。いまの自分を肯定できないから、自分を愛することができない――。そういう人はたくさんいるのではないでしょうか。ホッファーの生き方と言葉は、そんな生きづらさから脱却するための処方箋であるといえます。人に合わせるのでもなく、社会に合わせるのでもない生き方。素直に自分の心の声に耳を傾けた時に聞こえてくるかすかな叫び。そのかすかな声を聴き取り、声に従うことができた人だけが、自分を愛せるのです。

不平不満がある時

激しい不平不満というものは、その原因が何であれ、根底では、自分自身に対する不満である。自分の価値にまったく疑念がない時や、独立した自己を意識し無いくらい他者との一体感を強く抱いているとき、我々が何の苦もなく困難や屈辱に耐えることができるのは、驚くべきことである。 『The Passionate State of Mind』

僕たちが不平不満を口にするとき、それは他者に原因があるか、外的要因に基づくものかと考えがち。それは間違ってはいないかもしれ無いが、結局のところ、自分自身に対する不満であることが多い。誰かと競争して負けた時に感じる不満は、競争相手に負けた自分が嫌なわけで、これも自分に対する不満なのです。だから、ホッファーは自己に満足することの大切さを説くのです。自分に満足していれば、ほぼほぼ不平不満を抱かなくて済むようになります。では、自己への満足はどうやって得るか?それは自分の価値にまったく疑念がない状態、他者との一体感を強く抱いている時、自分は素晴らしい、価値ある人間だと感じることができ不満を遠ざけることができるでしょう。

独創に富んだ考えの数々は群衆の中に身を置いている時に出てくる

 

一人でいるときが最も創造的なときだと信じて生きてきたけれど、実際には独創に富んだ考えの数々が誕生したのは群衆の中に身を置いていたときである。 『Truth Imagined』

人間はどのような時に創造的になるのか。ホッファーの場合、かつては一人でいる時だと信じてきたが、ふと気づくと実は群衆の中に身を置いている時の方が創造的になるのだと気がつく。その時、彼は感性が研ぎ澄まされ、創造力にあふれていたと言います。部屋にこもって悶々とアイディアを練るのもいいが、時には環境を変えてカフェなどの群衆にまみれるところで頭をひねったほうが、よりクリエイティブになれることもあるのだと覚えておくと、行き詰まった時の突破口となる。

相対的に金持ちかどうかが大事

自分を金持ちだと感じるには、周囲に貧乏人がいなければならない。豊かな社会にいると金持ちはその独自性を失う。つまり、金持ちになっても充足感を得られないのである。そして、金持ちが金持ちであることを実感できなくなると、彼らは成功というものに懸念を抱き始める。成功の果実を放棄するまでには到らないにしても、成功に罪悪感を抱き、虐げられている人々の苦悩や、現状の罪悪に、心の底から同情心を抱くようになる。 『First Things, Last Things』

金持ちかどうかという概念はいつも相対的なもの。比べる対象の自分の周囲にどれだけ金持ちがいるか、もしくは貧乏人がいるかで決まってくる。例えば金持ちになって、高級車をかい、そこで満足していれば自分は金持ちという思っていられるが、車のオーナズクラブのようなコミュニティに属すると、みんなが同じ車を持っているわけで、相対的に普通になってしまう。さらに高級なグレードの車を持った人に出会い自分はまだまだ金持ちではないと感じることだってありえる。

労働意欲はどこから湧くか?

我々は、必要なもののためよりも、不必要なもののために努力し、働こうとする。 『Working Thinking on the Waterfront』

生きるために働くのなら、本当は必要なもののために働くはずだが、実際は違う。人間は不必要なもののために努力する。これを人間の本質であると理解すれば、To Doリスト(やるべきことのリスト)は逆効果だ。むしろNot to Doリスト(やらなくていいことリスト)を作った方がいい場合だってあるかもしれない。人間の行動を促すのは好奇心なので、不必要なことほど興味が湧いてしまうものだ。

「働く哲学者」エリック・ホッファーの100の金言が詰まった書籍。今の自分を見つめ直す良い機会となる言葉が多数収録されており、解説も簡潔で読みやすかった。人生相談を受けるつもりで読むと新たな気づきが得られると思います。