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女をののしりたいとき、男をこらしめたいとき、愛をささやくとき、悲しみにうちひしがれたとき、仲間をはげましたいとき、人生につかれたとき、一発、ぶちかましてみませんか? 古事記・日本書紀から、明治・大正・昭和・平成の文学作品、はては国会論議から夫婦ゲンカに至るまで、悪態・罵倒語はどのように使われ、日本人の血となり肉となったのか。豊饒なる日本語の世界へ分け入る一冊。

馬鹿野郎!

私なども、石川淳先生と初対面の席で、三十分ほど一緒にお酒を呑んでいるあいだ、三十回も、「このバカ野郎。三島のバカ野郎」と呼ばれましたが、これが愛情ある呼びかけであることはすぐわかりました。 (三島由紀夫『第一の性』)三島はこの文章のすぐ前で、男の友人同士は「お互いにデリカシイを働かしているので、ひどい悪口を言い合いながら、お互いの 禁忌 には触れぬように気を使っている」と述べている。つまり三島は、石川淳が「こいつは馬鹿野郎だ」とことば通りに思っていたなら「馬鹿野郎」とは言っていない、と思っている。さらにこの後に、子どもと女性は相手が気にしていることを口にすると指摘し、「デリカシイの世界/思いやりの世界/見て見ぬふりの世界」は「男の世界にしかありません」と記す。三島の説に従うと、愚かしい行動に「馬鹿野郎」と怒鳴りつける多くの男性(漱石を含む) は、「男の世界」からはみ出していたことになる。

「馬鹿野郎!」と聞くとビートたけしの「ダンカン、馬鹿野郎!」と言う親しみを込めた「馬鹿野郎」が想起されるが、本気で馬鹿野郎と言う言葉を使うのは憚られる。それくらい罵倒の言葉としてはメジャーなものだ。親しい仲の相手を「あいつは馬鹿野郎だ」と言う言葉には罵倒の意味は含まれない。しかし、ひとたび怒鳴りつけるように使うとそれは罵倒となり、使った本人まで「男の世界」からはみ出す羽目に。

ブス!

「気取んな、ブス」男は言い捨てて去っていった。(角田光代『対岸の彼女』)一九八〇年代の横浜のディスコで、スーツ姿の青年が少女に声をかけたが、無視されてしまった。ナンパをするくらいなので、はじめは少女に対して悪くない印象を抱いていたはずだ。ところが無視されると、いきなりブス呼ばわりである。自分のプライドを守るために「ブス」と言い捨てるのは、「ブス」だからこそ可能である。背の高い女の子に「チビ」、やせている女の子に「デブ」と言うことはできない。経済的に豊かな女性に、「貧乏女」と言うことも無理だ。しかし「ブス」のみは、もしも自分が気に入らなければ、世界的な美女に言うこともできる。男性たちは傷つきやすい自己愛の守り札として、「ブス」ということばをいつもポケットに入れておくようになったのかもしれない。

ナンパをした相手がなびかないとわかると、捨て台詞とともに吐き捨てられる「気取んな、ブス」と言う言葉。好みの相手だからナンパしたのではないのかとツッコミどころ満載だが、「ブス」とは便利な言葉だ。いくら相手が容姿に恵まれていなくても、「ブス」などと言う言葉はあまりにも攻撃的なので使うべきではない。自分を防衛するための自己愛の守り札としての「ブス」とあるが、なかなか女性に対して「ブス」と言うのは勇気がいる。男性同士の会話の中で、あいつは「美人」であの子は「ブス」と点数をつけることはあってもだ。この場合自分の容姿は棚にあげるのが鉄則だww

男性に好まれる女性の年齢

男性が遊ぶ場所で、男性に好まれる女性の年齢は、江戸時代も今もそれほど変わりがないようだ。吉原の遊女は二十一、二が全盛期とされ、二十七歳で「年季明け」となった(病気やストレスなどのために、年季明けの前に命を落とす遊女が多かった)。一方、踊りや音楽を専門とする芸者は、三十歳を過ぎても仕事を続けることができた。

いつの時代も女優やアイドルの全盛期は二十歳前後だ。これは男性でも同じ。好む好まざるは別として、やはり若い方が活気があって良い。脇役などで年配者をようする場合はあっても、大抵の場合は主人公は若さ溢れる存在であることを求められる。自分の年齢はさておき、好みの女性を聞かれるとやっぱり若い娘をあげてしまうのが男のダメなところ。

オヤジ臭

飲み会の席に若い女性などが混じっていると、「通勤電車のなかのオヤジの体臭がたまらない!」なんて話題がよくもち出される。三十代の頃は「わかる、わかる」と一緒になって笑いとばしていたものだが、自分も四十過ぎの年代に入ると、穏やかではない。(略) 身だしなみや、単なる先入観の問題、と思っていたのだが、化粧品会社の研究チームによって、いわゆる〝オヤジ臭〟をもたらす原因物質が特定されたらしい。 (『朝日新聞』平成十一年六月十二日夕刊「泉麻人の週末流行語大賞」)

若い頃は身にもしなかったが、僕も40代になって、加齢臭を気にする歳に。そこで最近、香水にはまっています。顔もカッサカサにならないよう、洗顔後は化粧水や乳液、美容液まで使い始めてかなり女子力高めになってきていますww

いつの時代も、相手を罵倒する言葉は数多くある。昭和感漂う「この甲斐性なし!」に始まり様々な罵倒語を紹介。言われると辛いが、自分で思わず発してしまうこともある罵倒語、これからは心のうちにとどめておきたいと思う。