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AI、ブロックチェーンなどテクノロジーの進化、少子高齢化、人口減少などにより、世界と日本が大きく変わりつつある。今後の世界の中で日本が再興するにはどんな戦略が必要なのか。落合陽一が、テクノロジー、政治、経済、外交、教育、リーダーなどの切り口から日本と日本人のグランドデザインを描く。

高度経済成長の3点セット

結局。高度経済成長の正体とは、「均一な教育」「住宅ローン」「マスメディアによる消費者購買行動」の3点セットだと僕は考えています。つまり、国民に均一な教育を与えた上で、住宅ローンにより家計のお金の自由を奪い、マスメディアによる世論操作を行い、新しい需要を喚起していくという戦略です。物質的には豊かになっていった高度経済成長の時代において、これは別に悪い戦略ではなく、むしろいい戦略でした。ただし、今の状況でこの戦略を続けていくと、日本人一人あたりの生産性はどんどん下がっていきます。

今までのような戦略では、機械との親和性が低く、代替性の高い人間を量産する仕組みではこれからはやっていけない。今のシステム下では、働く必要のない人を高給で雇わなければならず非効率。それに加え、昨今の企業や組織に散見する、「隠蔽体質」「炎上気質」「パワハラ」「いじめ」「残業」などあらゆる労働問題に絡んできます。このような現在機能不全に陥っているシステムを新たな価値を生むシステムに作り替えなければならない。

憲法改正議論

今、憲法改正の議論が起きているのは、国防上の問題に限らず、時代の変化に合わせて修正しないといけないところがたくさんあり、予期せぬデッドロックを防ぐためなのです。農地や生産についても同じことがいえます。戦後、日本は欧州型と米国型を組み合わせて、農地改革をしてきたのですが、官僚制をやめて、民生の大規模なグランドデザインを行わないといけない今、それに着手できないほど、農協から流通までステークスホルダーの関係性がわからなくなってしまった。

日本人は外から入ってきたものを「欧米」と呼んで、いりいろな分野で各国の方式を組み合わせいいとこ取りをしたつもりが、時代の潮流に飲まれ、悪いとこどりのような事態に陥っています。これは時代が変化してきているのだからしょうがないこと。今までの古いいいとこ取りの制度は捨て去り、時代にあった新しい制度を模索するべきフェーズにきているのは間違いない。

日本にはカーストが向いている!?

カーストというと、悪いイメージがあるかもしれませんが、インド人にとっては必ずしも悪ではありません。僕はインド人によく「カーストってあなたにとって何なの?」と質問するのですが、多くの人が「カーストは幸福のひとつの形」と答えてくれたことがありました。なぜカーストが幸福につながるのかというと、カーストがあると職業選択の自由はない反面、ある意味安定は得られるからです。生まれた時から、どういう層の人々と結婚するのかがわかっているし、誰と結婚するかも大体わかっている。また未来において自分の子供が同じ職業を得ているだろうとわかるからです。それが保証されていることは、実は「自由がなく不幸」ではなく「安心かつ康寧」なのだと聞いて、確かにそうだなと思いました。

カーストというと日本の学校などでもそれと似たようなものが敷かれているのであまり良いイメージはないが、同じカースト内で連帯感が生まれかえって良いとする向きも。派手で遊び好きな子がカースト上位にいるイメージだが、実際には勉強ができて友達の勉強まで見てくれる子や、情報通、などの子が人気なのだという。同じカースト内で同じような趣味思考の人間と繋がることは意外と心地よいもんだ。学校にそれを求められなければ、ネット上にそれを求めれば同じ趣味嗜好の人間なんていくらでも探せる。日本にはカーストが意外と向いているのではないかというのは、島国ならではの守られた空間をよしとする考え方だ。かつては日本にも士農工商という制度があったこれに習う形で、安定を与えれば案外うまく機能するのかもしれない。

「普通」って何?

とくに日本人はマスメディアに植えつけられた「普通」という概念にとらわれすぎです。多くの人は、普通こそが天地神明の理だと思っていて、全てのことを「普通」で片付けます。しかし実際には、普通が一番だと思っているのが、一番の間違いなのです。普通は多くの場合、最適解ではなく、変化の多い時には、足かせになるからです。

最近では広告が急速に力を失ってきているように感じます。テレビCMはタイムシフト視聴により飛ばされ、ブログに貼った広告への流入も日に日に少なくなっているように思います。景気はいいので広告出稿自体は増えていますが、マスメディアでさえリーチできなくなっている実態が。

日本でも今、VALUやタイムバンクで個人に値段がついたり、時間に値段がついたりするサービスが人気となっています。個人の価値に対するトークンを株式市場のように応援できる仕組みのクラウドファンディングなども盛んに行われています。人口減少を新たなチャンスと捉え、ロボット、自動運転、自動翻訳、ブロックチェーン、トークンエコノミーといった新しいテクノロジーも日本再興戦略の一つとして機能することでしょう。