患者不在の専門医療
大学で教授戦に勝とうとしたら、このような基礎医学の研究実績を上げることが唯一の条件となる。しかし、こういう類の専門医は、患者の診療はからっきし不得手である。なぜなら、基礎研究の実績はあっても、臨床の専門医ではないからだ。もっと深刻なのが外科の教授のケースである。ある外科系の教授選では、一流の科学雑誌に多数の論文を発表している候補が当選した。これはその候補が長年にわたってほとんどの時間を基礎研究に費やしていたということを意味する。逆の言い方をすれば、本業の外科手術の腕を磨く暇はなかったということである。優れた基礎研究の実績で外科の教授になったはいいが、外科手術は上手にできない、ということになりかねない。
5年前に東大病院で行われた天皇陛下の心臓手術では、手術が東大病院で行われたにも関わらず、執刀医は心臓血管手術のゴットハンドと言われる、順天堂大学医学部心臓血管外科教授の天野篤氏と彼のチームだった。東大病院が名誉よりも天皇の命を優先した正しい決断ではあるが、同時に東大病院には国内最高のVIP手術を任せられる医師がいないという残念な事実を世に知らしめたケースとなった。
漢方薬にも副作用はある
漢方薬は安心というイメージがあるためか、比較的安易に使われやすい。だが、漢方薬も薬である以上、副作用はある。風邪の代表的な漢方薬である「葛根湯」や「麻黄湯」、花粉症などによく使われる「小青竜湯」なども、前立線肥大や緑内障には禁忌である。これらの漢方薬に含まれる麻黄という生薬には中枢神経や交感神経の賦活作用があるため、緑内障の人なら眼圧が上がる、前立腺肥大の人なら尿が出にくくなるといったリスクが高まるのだ。それを専門医は知っているのか、はなはだ疑問である。
他にも泌尿器科専門医が抗コリン剤で高齢者の頻尿を治療すると、緑内障が悪化したり、便秘、口渇、認知機能低下などの副作用を起こすことも。こういった間違った漢方の処方を受けないためにも、中国伝統医学に精通した漢方医にかかることをすすめている。
現代医学の決定的な欠陥
現代医学の決定的な欠陥がある。医師を目指す者は、大学の医学部で勉強するわけだが、教科書に書かれているのは、病気の原因、病態、検査法、診断に関してのみだ。治療に関しては、治療に効果のある薬物が羅列されているだけで、薬物の作用機序(薬物が生体に何らかの効果を及ぼす仕組み、メカニズム)、使用方法、具体的使用例、副作用などについては非常に貧弱な記載しかない。つまり、治療学は存在しない。
僕に処方されている薬(向精神薬)のジェネリック医薬品が出たのでそっちに移行した時に、薬局で副作用として体重の増加などはないかと尋ねられたことがある。医師が副作用について無知だったとしても、薬剤師がそこを補完してくれるので、新しい薬を処方された際は、薬剤師に心配な副作用はないかなど尋ねてみれば良い。薬剤師は丁寧に他の病気との関連なども教えてくれます。
予防医療は誰のため?
元気で長生きしたいーー。そう思ったら、健康診断などでその予兆となる異常を見つけ、早めに対処すること。これが現代医学の常識である。私も早めに病気を予防するということには賛成である。問題は、異常かどうかを判断する基準値の設定次第で、健康な人間がいとも簡単に病気予備軍にされてしまうことにある。血圧を例に挙げよう。2010年の国民健康・栄養調査によると、高血圧と判定された人は、30歳以上の日本人男性の60%、女性の45%にも上り、その数は約4300万人(NIPPONDATA)。何と国民の3人に1人は高血圧ということになる。高血圧と診断せれたら、「血圧を下げる努力をしましょう」と、医師から食事の塩分を減らす指導を受け、その数値によっては、降圧剤を処方される。
なぜ血圧を下げる必要があるのか?脳出血、脳梗塞、心筋梗塞、がん、アルツハイマー病などの予防?死亡率を下げるため?年齢を重ねてくると高血圧で降圧剤を処方される人も多いのではなかろうか。降圧剤を売るのは簡単。血圧高めな人全員に降圧剤を処方すれば、降圧剤で高血圧を抑えることはできても根本治癒には至らないので、その患者は一生涯降圧剤を飲み続けることになるからだ。血圧高めの基準は製薬会社に都合のいいデータが用いられていると考えた方が良いだろう。
現代医療の問題点を指摘し、根本治癒を目指す、中国伝統医学をやたらと推してくる書籍。何事もバランスだと思うので、長く患っていている方は、治療の一つの可能性として中国伝統医学を選択肢に加えてみるのも良いかもしれない。
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