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精神疾患という病気は、進歩した現代の医学の中で、もっとも解明が遅れてきた病気です。しかし、最近の脳科学の進歩によって、精神疾患の研究が進展した結果、いよいよ、実際に脳研究さえすれば、新しい治療や、新しい診断法ができるところまで来ました。統合失調症、うつ病、双極性障害、依存症を根本から治すには? 精神疾患における最先端の研究事例を紹介し、乗り越えるべき最後の壁――脳を直接調べることの必要性を解く。

検査が行われない精神科

病気で内科や外科に行けば、かならず検査が行われ、誰でも納得できるデータを示してくれます。しかし、確かに精神科では、未だに診断検査がありません。そのため、精神疾患の診断は患者さんの話を元に行っています。患者さんも、診察室で同じ質問をされたら毎回同じように答えるというわけではないでしょう。面接に頼った診断では、臓器を直接調べた診断に比べれば、どうしても不確実な面があることは否めません。ましてや「うつ病詐欺」のように、最初からだますことが目的の人がきたら、どうしようもありません。

生活保護に不正受給があるように、精神疾患による障害認定でも口頭による診察で何級か決まるので、嘘をついてまさしく「うつ病詐欺」のようなことを企む輩も出てくるだろう。皆さんは3大疾患と聞くと何を思い浮かべるだろう。「ガン」は間違いなく入るだろう。それでは後の二つは?高血圧?糖尿病?脳卒中?心筋梗塞?答えは「精神神経疾患」がガンを抜いて1位となっていてもう一つは「心血管疾患」です。これが3大疾患。それだけ多くの人がかかる精神神経疾患を根本的に治療するための研究として必要とされているのがブレインバンクだ。ブレインバンクとは、健常者、精神疾患患者共に、生前に登録しておいて死亡後素早く脳を取り出し研究に役立てるというものだ。

統合失調症やうつ病の原因は脳にある

私たちのような、生物精神医学に携わる医師は、統合失調症やうつ病の原因は、脳にあると考えています。どんな脳の病気ですか?以前は、そう尋ねられたら、「統合失調症は、ドーパミンという神経伝達物質が過剰になる病気です」とか、「うつ病はセロトニンという神経伝達物質が不足する病気です」と説明していました。しかし、今、私たちは、こう言いたいのです。「統合失調症は、ドーパミンという神経伝達物質を遮断すると良くなるので、おそらく、ドーパミンが過剰な状態になっているのだと思います。そして、脳の中に、ドーパミン過剰を引き起こすような病変があるはずです。しかし、その病変は、まだ特定されていません」

いずれにせよ、ドーパミンが過剰な状態から抜け出せれば症状がおさまります。向精神薬の頓服などを飲んで1時間ほどすると症状が和らぐのは僕も日常的に経験しています。この病変を起こす脳の部位がわかれば統合失調症の完全な治癒(寛解ではなく)も夢ではないのではないか。研究の進展を一患者として望みます。精神疾患に関する治療の研究は現代の進歩した医学の中でもっとも解明が遅れている病気の一つです。しかし、最近の脳科学の進歩により、精神疾患の研究が進展した結果、いよいよ実際の脳研究さえすれば、新しい治療法や診断法ができるというところまでやってきました。現在のように問診だけの診断法ではなく、脳の病変を直接調べ一人一人にあった治療法が開発されれば人類はまた一つの病気を克服することとなる。しかし、その最後のステップである患者の脳を調べるというところで研究が停滞している。僕自身、診察を受けた際、脳の研究のため被験体のバイトをしないかと誘われたが面倒なので断った。どんな研究かわからなかったことと、2日間拘束され、しかも遠方の研究施設まで赴かなくてはならないめんどくささからだ。

なぜ精神疾患の脳研究が必要なのか?

たとえば統合失調症の原因を解明しようとして研究を行っている基礎科学者でも、実施の患者さんに直接接したことがない、という場合もあります。基礎研究者は、実施の患者さんのサンプルを調べる機会が少ないこともあって、マウスやラットといった小動物の神経細胞や脳を調べる場合が多くなります。しかし、果たしてマウスに幻聴が存在しうるものでしょうか?幻聴はおそらく言語を持つ動物でない限り、存在しないでしょう。おそらく、人間に近い霊長類のチンパンジーやゴリラでさえ、幻聴は存在しないでしょう。高度に発達し、言語や高度な知性を身につけた人の脳を、動物実験だけで研究するには、どうしても限界があるのです。

代表的な精神疾患の「統合失調症」「うつ病」「双極性障害」「ストレス性の精神障害」なども脳の病気であることは間違い無いと思われるが、目に見える病変が見つかっていないため神経疾患とは一線を画して「精神疾患」と呼んでいる。

これからの精神医療の発達のためにもブレインバンクが必要なことはわかったが、まだ受け入れ先が少ないなどの問題点はいくつか残っている。僕はボランティア精神が皆無なのでこういった活動のメリットよりもデメリットを見てしまう。統合失調症は寛解でも病気とうまく付き合えば暮らしていけるという実感があるので、治ればいいなぐらいにしか思っていない患者の現状がある。