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承諾誘導のプロたちの世界、つまりセールスマン、募金活動員、広告マンなどの世界にどっぷり浸かり、導き出されたテクニックと戦略を内側から観察しその手法を解説。自身でそのテクニックを用いる場合、騙されないための防衛策を両面から見ていこう。

紳士服の販売店

ある男性がファッショナブルな店に入って、三つ揃いのスーツとセーターを買おうとする場面を考えて見ましょう。もしあなたが店員だとしたら、その客の財布の紐を緩めさせるために、スーツとセーターどちらを最初に見せるでしょうか。紳士服の販売店では、このような場合、高い品物の方を先に買わせるように店員を指導しています。常識から考えると、逆のような気がします。スーツに大枚をはたいたすぐ後では、さらにお金を払ってセーターを買うのに二の足を踏みそうです。しかし、さすがに専門家はよくわかっています。彼らのやり方はコントラストの原理に合致しているのです。

まずスーツを買わせてしまえば、その後セーターを選ぶとき、どれほど高価なものでも、さほど高くないように感じてしまいます。これと同じことが僕のマンションでも。現在住んでいるマンションを購入時、まず、マンション購入を決めた後、照明器具やカーテン、家具など高価であるにもかかわらずこれもこれもと購入してしまったのです。後から考えれば、照明やカーテンを後から単品で買うとなると、多分その値段のものは買わなかったことでしょう。新車購入時もオプションでインテリジェントキーやイモビライザーなど追加していき結構な高額に。合計金額を見てみると、オプションをそんなに必要としなければ、もうワンランク上の車種が買えてしまうほどに。僕はセールスマンや販売員に弱いことがわかったので、最近では、洋服などを買うときは販売員のいないネットで買うようにして影響力の武器にさらされないよう心がけています。少し前まではサイズが合わなかった時に返品が効かなかったりしましたが、今は返品OKというサイトがほとんどで、それによって売り上げを伸ばしているサイトも多いようです。

無料ーーとは言えないーー試供品

返報性の力は、いうまでもなく商売の世界においても見られます。例はたくさんありますが、ここでは私たちが馴染み深いものを二つ検討して見ましょう。マーケティングのテクニックとして、無料の試供品を配るという手法は、効果が高く、長い歴史があります。たいていの場合、顧客となりそうな人たちに製品を配布し、その反応を見るわけです。確かにこれには、生産者が製品のよさを消費者に知ってもらうために行っているという一面はあるでしょう。しかし、無料試供品の真の強みは、それが一種の贈り物であるため、返報性のルールを持ち込めるという点にあります。

製品の存在を知ってもらうと同時に、贈り物につきものの報恩の義務を発生させるのです。最近うまいなと思ったのはジョー マローン ロンドン。気になる香水を30ml入りの小さいサイズを買ったらいくつか他の香りのサンプル1.5mlがおまけでついてきました。その中に気に入った香りがあったので30mlの小瓶を使い切った時に、今度は同時にその香りも購入。すっかりファンになってしまいました。そして今度は別の香りが‥‥永久ループだなこれww

他者がもたらす力

みんながやっているなら、その行為は正しいと仮定する私たちの傾向は、いろいろな場面で悪用されています。バーテンダーは、よく、店を開ける前に何枚かのドル紙幣をチップ入れに混ぜておきます。それを前の晩の客が残していったチップに見せかけて、たたんだお金でチップを払うのが、バーにふさわしい行動であるという印象を与えようとしているのです。教会の受付も、しばしば同じ理由から募金箱に前もってお金を入れておきますが、こうすることによって、やはり実入りが良くなります。キリスト教福音派の牧師は、聴衆の中にサクラを仕込んでおくことで知られています。桜は打ち合わせ通りに決められた時間になると前に進み出て証言と寄付をします。

募金箱が透けて中が見えるようになっているのはそのためか!と思わず納得してしまいました。街角で少年少女たちボランティアを立たせ、募金を募っている輩の中にはこうしたテクニックを使って騙しているケースもあるのだなと思うと、募金する気も失せますよね。なんだか寄付や募金がいいことで正しい振る舞いだと信じられている裏には、何も知らない少年少女たちを使ってお金を集める悪どい輩も中にはいるということを知っておくと良いでしょう。

類似性

近頃のテレビでは、どこにでもいそうな普通の人が商品を推奨するコマーシャルがよく流れていますが、その理由もここにあると思います。広告主は、商品を(最も大きな潜在的市場を形成している)普通の視聴者に売り込むには、ほかの「普通の」人びとがそれを好んで使っていることを示せばいいとわかっているのです。

日本ではCMといえば俳優やタレントが起用されることが多いお国柄だが、最近ではより自分たちに近いブロガーやインスタグラマーなんかが影響力を持ったりすることも多い。そういった人の中には「カチッ」・「サー」と自動的に相手に判断させる悪魔のようなテクニックを駆使して商品を売り込んだりする人も多くいる。

出版されてからだいぶ経つ書籍ながらも、内容は今でも通用するものだと思う。自分たちの周りで影響力の武器を駆使して儲けようとする輩に引っかからないよう、防衛策を身につけ、世の中を渡る。時にはわかっていてその手に乗っかるぐらいの余裕も今からは必要なのではないかと思う。