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「激転」とは激しく転換するさま。著者の造語で、辞書には載っていない。既存の「転換」という言葉にはない過激さや暴力性を孕む、目まぐるしい変化を指す。今起きているのは、そんな変化だ。国々に伝染し始めた自国第一主義の本質と行方とは。

大統領令を過去にないい勢いで発令するトランプ大統領

ちなみに、歴史的に見て大統領令の発令件数が多くなるのは、戦時や恐慌あるいは大不況発生時などである。要は、緊急事態への対応を要する場面で大統領令が多くなるわけだ。これは、それなりにわかる。だが、現状はそのような有事ではない。もっとも、トラ鬼さん的にいえば、「アメリカ・ファースト」が危機に瀕しているという意味で、まさに大有事なのだろう。

トランプ大統領を「トラ鬼さん」と表記しているのがややセンスを疑うが、まあそんなことはどうでもいい。TPPからの離脱やシリア難民の受け入れ無期限停止など剛腕が光るトランプ氏だがロシアとの関係性で窮地に追い込まれている。このまま世論が反トランプに傾き続けロシアゲート問題が事実ならば弾劾の恐れも出てきた。自国第一主義で人権侵害とも取れる大統領令を発することで自らの首を絞めているようにも見える。

良心的ブレグジターと癇癪持ち的ブレグジター

自分たちを自分たちらしく生きさせてくれさえすれば、それでいい。その感覚は、イギリスの国民投票でEU離脱を選んだ人々、すなわち「ブレグジット」(Brexit)論者たちの中にもある。もう皆さんすっかりよくご存知の通り、「ブレグジッド」はBritainとexitを接着した造語である。(中略)それはともかく、彼らがEU離脱を選択した理由は、ナイジェル・ファラージュのそれとは違う。ナイジェル・ファラージュは国粋主義者だ。人種差別主義者でもある。よそ者は出て行け。多様性なんぞクソくらえ。これがナイジェル・ファラージュの感性だ。

良識的なEU離脱論者の多くは、EU的な画一性が嫌なだけで、多様性を拒むわけでも、人種差別を助長するわけでもない。EUの画一的ルールによって窮屈さを感じているだけである。こうした人たちは、ナイジェル・ファラージュ型の「癇癪持ちのブレグジター」と同一視されることは心外だろう。EUからの離脱を決めてからももうだいぶ経つが、イギリス国内は度重なるテロやなんかで政権に対する不満が高まっている。高層マンションの火災では、発生直後の首相の対応が悪く、後から義援金を政府から拠出することを決める後手の戦略に市民は怒りをあらわにした。

何でもかんでも国創り

「新しい国創りに挑戦する」というこの言い方が、何とも引っ掛かる。これを言う時、チーム・アホノミクスの大将の頭の中には、「戦後レジームからの脱却」によって目指していくべき大日本帝国のイメージが燦然と光り輝いているのではあるまいか。実はこの「国創り」こそが、この演説の衝撃ポイントその二なのである。今回の施政方針演説は、「はじめに」と「おわりに」に挟まれた五つの本論によって構成されている。五つの本論につけられているタイトルを列記すれば次の通りだ。

  • 世界の真ん中で輝く国創り
  • 力強く成長し続ける国創り
  • 安心・安全の国創り
  • 一億総活躍の国創り
  • 子どもたちが夢に向かって頑張れる国創り

戦後のその先へと言うことを強調するため「新しい国創り」を連呼。では今の日本は国ではないのかと疑問符を投げかける筆者。アベノミクスを「アホノミクス」と揶揄し持論を展開するが、「世界の真ん中で輝く国創り」も目標として掲げるにはいいのではないかと思う。経済成長が見込めない世界情勢の中、新しく進化する国と言うものを描くぶんにはいいと思うのだが。経済がグローバル化するとどうしても資本主義の性質上、格差が生まれる。そうすると反グローバル化を掲げる人が現れるのは必然。しかしこの反グローバルは、排外主義を掲げることにつながり、国境を隔てて人々が対峙し、敵対し排除しあう構図を良しとすることにつながるため大変危険だ。

経済のグローバル化は維持すると、一部の人に富が集中するのは避けられないので、税の応能負担を促進する累進課税を強化し富の再分配を行う。ベーシックインカムなんかも検討するに値するだろう。所得上位1%が残りの99%の人々よりも多くの資産を持っているいびつな格差社会は、使い切らないほどの富を再分配すれば良い。

国から余計な役割を引き剥がす

だが。「強い日本を取り戻す」とか「アメリカをもう一度グレートにするぜ」、あるいは、「今や、あるのはグローバル対愛国の対決のみだ」という類のメッセージは、疲れ果て、すり減り切ってしまった人々の魂に突き刺さる。萎えた心に揺さぶりをかける。誰が自分をこんなに追い込んでいるのか。犯人探しを求める思いに対して、「犯人は、あのグローバルというヤツだ」とか「犯人は移民という名のあいつらだ」という指の指し方がカタルシス効果を持ってしまう。

経済が硬直し成長が鈍化すると犯人探しをしたくなるのはわかる。しかし矛先を何に向けたとしてもそれは根本的な解決にはならない。今は成長戦略に頼るよりも、無成長でも世の中が回る施策を練るのが正解だと思う。

混迷の時代にあって、どのように自分たちが振る舞えばいいのかを考えさせられる書籍であった。少し奇をてらった感は否めないが、いろんな人の考え方に触れることは大事だと思った。