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もし今アダム・スミスが生きていたら、日本経済の現状を見てなんというだろうか?もしケインズが生きていたら、どんなことがあっても公共事業を!というような主張を支持しただろうか?経済古典からそんな想像ができるようになれば、楽しいと思うという主眼から繰り広げられる経済論の書籍。

アダム・スミスが見た「見えざる手」

重商主義とは、「貿易黒字を出すことが富を築くことである。貿易にあたっては、外国製品の購入以上に国産品を買う街で販売することを旨とすべきである」という考え方だ。つまり、ひとことで言えば、重商主義とは、貿易黒字至上主義だと考えればいい。現在でも一面の真理はあると考える人はいるかもしれないが、要するに、とにかく貿易黒字を出す、そのためにはさまざまな輸入規制を行うべきだという考えが重商主義の中に含まれている。しかしこれは、明らかに資源の効率的な配分をゆがめる。重商主義は国民のためにならないということから、重商主義への徹底的な批判を、アダム・スミスは『国富論』のなかで展開している。

「見えざる手」で多くの人に知られるアダム・スミスだが意外にも後世に残した書物は極めて少ない。死の直前に自らの草稿類を焼き捨ててしまったためだとも言われているが、実際出版したのは2冊しか知られていない。『道徳感情論』と『国富論』である。

インターネットが普及した現在、膨大な量の商品を揃え低コストで扱うことができるようになった。そのため、多種少量販売でも利益を得ることができるようになった。このような考え方を「ロングテイル理論」という。アダム・スミスの時代はある程度まとまった大量販売が必要であり、そんななか分業が生まれ経済が発展してきた。アダム・スミスは、当時の経済発展のパターンを見抜いていたと言える。

関税の是非

新興資本家と大地主(貴族階級)が対立していた当時のイギリスで、具体的かつ最大の論争点は、「穀物法」の問題だった。「穀物法」とは、外国から安い農産物が入ってくる場合には、その価格にスライド式に関税をかけるという法律である。つまりガッコクの農産物価格が下がれば、自動的に関税が高くなり、国内に入ってくる農産物価格が安くならないようにすることを目的としたものだった。外国の農産物を締め出し、国内の農産物価格の下落を防ぎ、地主の権利を守るための法律だった。「穀物法」によって、低価格の小麦はイギリスから永久に締め出されることになる。一方、新興資本家は「穀物法」に異議を唱えていた。彼らにとって、農産物価格の上昇は賃金上昇を意味していたからである。当時の労働者の賃金は、かろうじて生活ができる水準であり、安い農産物が海外から輸入されれば、国内の農産物価格が下がり、賃金を抑えることができるようになる。

現在においても関税は国民の興味を引くひとつのトピックである。TPPでより自由な貿易が可能となるのか、それとも保護主義がまかり通るのかはこれからも注視が必要だ。消費者にとっては関税なんてないほうがいいに決まっている。自由な競争を世界レベレで行うことで、商品が安価で手に入るようになる。逆に他者他国よりも優れたデザイン・機能を持った商品を開発できればそれがアドバンテージとなり、高い値段でも売れるという現象も起こるだろう。いつの世も金はあるところにはあるもんだ。

ケインズが説いた「異論」

「何故東京の地価が上がるのか」という質問に対して、「それは東京の地価がまだ安すぎるからだ。安いからみんな買う」と。「適正な地価になれば、地価上昇はそのうち止まる」ーー。これは「長期的に見ると、みな人間は死んでしまう」という議論と酷似している。たしかに、みな安いと思っているから買っている、しかし、その地下では普通の人は買えなくなっている。普通の人が住宅を持てないところにこそ問題があって、その問題を解決することが政策である。経済政策の議論は、立ち位置を変えるだけで大きく変わってくる。モノの値段が下がり続けているときに、「まだ高すぎるからだ」というだけでは、問題の解決にはならないということである。

豊かな生活を送るため拠点を都内から地方へ移す人も増えている。都内は通勤には便利だが、なんせ生活するのにお金がかかる。一方、地方に目を向けると意外に便利なのにもかかわらず、住居の費用がだいぶ抑えられる。そういったメリットを受けるため、賢い人から都内から地方へと移住を果たしているのだ。家賃や不動産費用で浮いたお金を使って優雅に暮らす人々をテレビなどでも紹介していた。

シュムペーターの「創造的破壊」

シュムペーターは次のように考える。不況になると倒産が増えるが、それは非効率が排除されるプロセスである。不況があるからこそ世の中から非効率的ものが排除されていく。つまり、不況を通じて効率的なものだけ残っていく。したがって、資本主義は強くなっていく。

なるほど、好景気の時に生産性の低い会社が雨後の筍のように出現する。いざ不況に陥ると、経営基盤が脆弱だったり、生産性の低い会社は自然淘汰されていく。まさに資本主義とはこういったものだ。

大学の講義でも取り上げられることが多そうな、経済古典を学ぶことで今は見えてくる。アダム・スミスやケインズ、シュムペーターといった経済古典をこれから学ぼうという人にも優しい読みやすい書籍となっています。