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現代の労働者の困窮は、働く権利の問題だけではなく、「貧困」という生活全体の困窮の問題に広がり始めている。本書は、実際に起きた事件から、「法令を守らない使用者」と「立場の弱い労働者」にスポットを当て、格差、ワーキング・プア、貧困問題に風穴をあける取り組みを紹介する。

知っておくといざという時に役立つ労働契約法

多くの労働者に法に定める権利を知ってもらうため、事件に関係する労働法に内容を紹介している。なかでも、二〇〇七年に制定され、〇八年三月一日に施行された労働契約法について触れた箇所がいくつも出てくるが、この労働契約法は労働基準法や労働組合法と並び、これからの労働の現場に撮って基礎法令となっていく法律である。ぜひ多くの方にこの内容について少しでも知ってもらいたい。

この法律の制定により、より多くの事例で労働者を保護できるようになった。ワンマンのオーナー社長の解雇やパワハラ最近では大企業でも理不尽な残業代未払いなどが散見するので、労働者の権利として知っておいて損はないだろう。

管理職と残業代

労働事件の実務を担当していると、会社が従業員に対して残業代を払わないとき、なぜ支払わないのかということで会社を追求すると、会社側から「管理職だから」と主張されることがびっくりするくらい多い。

労働基準法によると、「監督若しくは管理の地位にあるもの」について、労働時間に関する労働基準法の規定の適用をしないと定める。残業代について規定している労働基準法は、この労働時間に関する規定の一つ。「管理職」は「管理監督の地位にある労働者」だから労働時間の規定の範囲外である。したがって残業代は発生しないというものの考え方。マクドナルドのようなサービス業の店長がそれに当たるかということが争点となるのだが、裁判所はマクドナルド側の主張を認めなかった。労基法第41条でいう管理監督者は「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者」としていて、サービス業の店長やマネージャー程度ならそのハードルを越えることはないと考えられる。経営者と同じような立場にある者には労働時間管理も残業代も不要。

労基署が言っているのは考えてみれば当たり前もこと。小さな組織で「課長」「マネージャー」やなどが安月給で残業代も支払われずに働かされるのは、「課長」だの「マネージャー」だのと言った役職名をつけ祭り上げることにより、残業代を支払わなくても良いとする会社側の姿勢は、残業代不払いのための偽装でしかないので労基法に引っかかる。僕もゲームセンターで店長をしていたとき大手のゲーム会社だったのでその点はしっかりしていて、残業代はしっかり出ていた。店長程度だと管理監督の地位にあるものと認められないという判例となるので、これからは争いになっても会社側が譲歩して交渉に応じるケースが増えるだろう。

残業代の請求をするのに当たって覚えておきたい大切なことは二つある。一つは、この請求を行うには在職しているか否かは関係ないが、時効の制限があるということだ。残業代請求とは賃金の請求だから、会社を辞めてしまったら請求できなくなるのではないかと誤解している人がいる。これは非常によくある誤解だ。しかし、いったん発生した賃金は会社を辞めても請求できる。会社を辞めたからといって諦める必要はない。

賃金は発生してから2年間が時効のタイムリミット。例えば毎月25日が給料日ならその時点で発生しそこから2年間が請求できるタイムリミットとなる。未払いの賃金があったら2年後かた順に毎月時効を迎えたぶんの賃金が消滅することとなるので、早めに請求する必要がある。ただしすぐに裁判を起こすか、内容証明郵便で通知を出しておいて、それから半年以内に裁判を起こせば時効を中断することができる。賃金未払いは自分だけに起こるとは限らない。家族や友人がそういった状況に陥る可能性だってあるので知っていて損のない知識だろう。

労働審判

労働審判という制度について説明しよう。非常に便利な個別労使紛争解決の手段なので、ぜひ知ってもらいたい。現在、個別の労働者ー使用者間の問題である個別労使紛争は増加傾向の一途にある。これらの事案については、解決したくてもなかなか裁判に訴えて解決するということが採られてこなかった。その理由として、従来、裁判は解決までに時間がかかること、及び弁護士に依頼した場合の費用が多額に上ることが指摘されてきた。このようなことがないように、簡易、迅速、柔軟に個別労使紛争を解決する手法として「労働審判」という特別な制度が制定されるに至った。これは、〇一年以降、本格化した一連の司法制度改革の目玉の一つである(そのほかに裁判員制度や、日本司法支援センターの設置などが制度化された)。

労働審判は迅速に対応するため原則として3回しか審理をしない。通常申し立てから3ヶ月程度で事件が解決する。そして必ず話し合いによる調停を試みなけれなならないという特徴もある。両者の折り合いがつかない場合労働審判委員会が「労働審判」という裁定を下す。折り合えればそこで事件は解決となる。

管理職だから残業代は出なくて当然。そんな常識からか、エセ管理職の役職を与え残業代を支払わない企業や経営者はまだ多いように思う。僕の周りにも(直接の知り合いではないが)経営の権限は一切ないのに店長だからという理由で長時間労働を強いられている人がいる。頑張る人に正当な対価が支払われる世の中であってほしいです。