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保育所に子供を入れられなければ、親は仕事に復帰できない。空きさえあればどこでもいいわけではなく、毎日通える範囲でなければならない。保育所に入れられないからと育児休業を延長するにも限界がある。それに加え、育児休業を取ることができない非正規就労の親の場合、「保育所に入れられない=即退職」を意味する。保育所をめぐる様々な問題を掘り下げていく。

保活に翻弄される親たち

伊藤さん夫婦は、ひとつひとつの認証保育所への申し込みを進めていった。ある認証保育所は0〜1歳児を計15人だけ預かる小規模な保育所だが、ホームページを見ると9月半ばの時点ですでに0歳児74名、1歳児107名の申し込みがあった。最終的には数十倍の倍率となる。

厚生労働省の保活の実態調査では約5500人の回答のうち、約4700人は保活は負担であったと答えている。倍率も高く今や進学や就職活動よりも困難を極める保活。選考の際にはガイドラインに沿った点数が高い方から優先される。20点が基準指数で夫婦ともにフルタイムの共働きの場合40点。40点が入所最低指数である。つまり、フルタイムの共働き世帯同士の争いとなる。しかしこの40点が最高点という訳ではない。調整際数として、すでに認可外保育所などを6ヶ月以上利用して職場復帰しているとプラス2点、兄弟姉妹が同じ保育所にいるとプラス1点など、加点される。という訳で、中には0歳児の入所最低指数が41点のところも。

つまり兄弟姉妹がすでにその保育園にいる子どもと、育児休業を早めに切り上げ、ベビーホテルなどの認可外保育所を利用して職場復帰している人の子どもで埋まってしまうのだ。そういった情報を知らずに申し込んでも「保育園落ちた日本死ね!!!」ということになりかねない現状がある。このややこしい仕組みを区役所のホームページの資料を読み込んで理解しないと、「負け組」になることに。

年度末生まれは保活の負け組?

さらに杉並区の場合、1歳児では入所最低指数が41点、42点という保育所が半分を占める。つまり、育児休業を延長して1歳児になる4月まで待っていては、入所できる可能性が低くなる。伊藤さんの妻が勤める会社は育児休業をきちんと1年間とることができる。育児休業の制度はあっても、職場の理解がなく実際には育児休業が希望どおり取れない会社もあるなかで、伊藤さんは恵まれている。だがそんなことは関係ない。0歳児で迎える4月に保育所に入所するというラインが事実上の育児休業の終了である。

伊藤さん夫妻の子供は8月生まれなので、まだ余裕があるほうである。子どもが2月末生まれだとしてみよう。4月には産休明けの8週間ギリギリである。そもそも産休明けから子どもを預かる保育所は少なく、体力的に母親の職場復帰も難しいだろう。だが翌年の4月まで待てば1歳になってしまう。どうしても杉並区で認可保育所に1歳から子どもを預けて働き続けようとすれば、年度半ばには、ベビーホテルなどの認可外保育所に預けて職場復帰し、6ヶ月の保育利用実績を作らなくてはならない。そうすると入所指数が42点となり、どこかの保育所に入れる可能性は高まる。

現在の制度だと年度末に生まれただけで、保活では負け組となってしまう。中には保活に有利になるように、予定日より1ヶ月早く帝王切開で出産する人も。保育所に入るためには、妊娠の時期を見越して子どもを作らなくてはならない時代に突入したのかと‥‥。こういった情報格差も保活には影響してくる。子どもを作り育てていくということはそれだけ贅沢なこととなってしまったのかとすら思ってしまう。

認定こども園の狙いと現実

幼稚園が認定こども園に移行したとしても、必ずしも待機児童対策になっていないのが実情である。保育所に入りたくても入れない子どもは、0〜2歳児に集中している。認定こども園の導入により、この年齢の受け入れ枠が増えることが期待されていた。しかし現在の制度では、幼稚園が認定こども園になっても0〜2歳児の受け入れをする義務はない。しかも、低年齢児を新たに受け入れるには施設の整備なども必要で、幼稚園側には抵抗感が強い。

国の狙いとは裏腹にうまく機能していない認定こども園、0〜2歳児の受け入れのため設備を整える余力のある幼稚園はいいが、多くが定員割れを起こし、経営がうまくいってない幼稚園である。そういった設備を増やす予算が上乗せできない現状もある。

保育士資格を持ちながら就業を希望しない理由BEST5

  1. 賃金が希望と合わない
  2. 他職種への興味
  3. 責任の重さ・事故への不安
  4. 自身の健康・体力への不安
  5. 休暇が少ない・休暇がとりにくい

やはり賃金の低さは多く報道されている通り大きな理由となっている。あと営業するには一定の数の保育士の出勤が必要なため、体調不良でも簡単には休めないといったこともあげられる。以前、看護師の待遇が悪かった時のように待遇改善が求められる。

現場ではアレルギー対策のためアレルギーのある子には別の食事が用意される。これも全員一括でどの症状の子でも食べられる食事を出せばいいと思うのだがなかなか問題が解決せず、保育士の負担ばかり増えている現状がある。僕には子どもがいないのでこうした問題に直面することはないが、少子化対策としての保育士の待遇改善は必要不可欠だろう。子どもを持つことが贅沢とならないためにも。