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バカな脳は自分だけが満足すればよく、炭水化物や甘いものがやめられない、それらの摂取のたび腸は悲鳴をあげています。人間をコントロールしているはずの脳は、じつはダマされやすい。とてつもなく長い生物の歴史では、40億年前にまず腸ができ、そのずっとあと5億年前にようやく脳が誕生しました。生物と腸とのつきあいは長いものの、脳とのつきあいはまだ短く、それゆえ生物は脳をうまく使いこなせていない。腸内細菌の有用性と共に「脳」と「腸」の関係性について、わかりやすく解説していく書籍。

「食べる」と「セックス」は同じ水源

人間の脳には「食欲」と「性欲」とが今でも隣り合わせにあった部位に存在しています。つまり、「食べること」と「セックスすること」とは同じ水源にあるということです。したがって、食べ過ぎると性欲がなくなります。逆に性欲が抑えられると、異常に食べたくなるのです。

近年、日本人の若者を中心にセックスレスが問題となっています。理由は大脳皮質が発達しすぎて「爬虫類脳」(人間の性行動は進化的に古い時代にできた脳がつかさどっています)を包み込んで隠し、本来の獣としての性的本能を抑えているからと考えられます。大脳皮質発達したため出現した、「行き過ぎた清潔志向」が関与していることは間違いないでしょう。2010年の国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、日本人の25〜29歳の童貞率は25.1%、30〜34歳は26.1%、処女率は25〜29歳で29.3%、30〜34歳で23.8%だそうです。18〜34歳までを総合すると、童貞率は36.2%、処女率は38.7%にも達している。家が裕福で教育レベルが高く大脳皮質に刺激がいく環境だと「爬虫類脳」が刺激されないので、ガツガツしたセックスができなくなったとも考えられます。実際、除菌を意識しすぎた環境で育ったせいか若い人の中にはセックスを〝汚い〟と感じている人も多いようです。

腸内細菌が「幸せ物質」を脳に運ぶ

人が幸せと感じるのは脳から分泌される脳内伝達物質が関係してます。一つはセロトニンという物質で歓喜や快楽を伝えるもので、もう一つはドーパミンという物質で気持ちを奮い立たせたりやる気を起こす働きがあります。

幸せ物質であるセロトニンが脳に不足しているかどうかのセルフチェック(サラリーマン用)

  1. 出勤してしばらくしても、まだ眠気が残っている
  2. 日光を浴びることが少ない
  3. 一駅ウォークしたい気分にならない
  4. なるべく人と会いたくない
  5. 言いたいことが言えない環境である
  6. 自分はダメだと何事に対しても消極的である
  7. 些細なことでキレやすい

幸せ物質であるセロトニンが脳に不足しているかどうかのセルフチェック(主婦用)

  1. 椅子が目の前にあるとすぐ座ってしまう
  2. 急いでいないのに赤信号が待てない
  3. 友人には自分から連絡せず、連絡が来るのを待つ
  4. 毎日の掃除や洗濯などの家事が面倒
  5. 自分の気持ちを素直に表現できない
  6. 電話に出ることを億劫に感じる
  7. 自分を何もできない人間だと責めてしまう

これらの項目のうち4個以上該当する場合は、セロトニンの分泌量が不足気味で6個以上だとかなり深刻ということになります。僕の場合、無職なのでどちらのセルフチェックも対象外ww

脳からの指令なしに独自の命令を出せる唯一の臓器「腸」

腸は身体にストレスを受けると、不安を打ち消すためにセロトニンを分泌します。その時セロトニンが急激に増えると腸が不規則な収縮を繰り返し、動きが活発になります。ストレスを感じたときに男性は下痢になり、女性が便秘になったりしますが、これは一種の防御反応の結果です。セロトニンが腸を守ろうとしている証拠です。さらに強いストレスを受け続けると、腸のわずかな動きでさえ痛みとして感じることがあります。それはセロトニンが脳に危険を知らせる信号を出すようになるためです。

さすが、脳より先にできた器官、よくできている。このほかにも、不安や緊張が腸内細菌のバランスを崩し、善玉菌を減らし、悪玉菌を増やすことがある。それによりさらに脳が不安と緊張を増強させるという「脳」と「腸」の相関ができている。腸内細菌を掘り下げるとキリがないが、人間の赤ちゃんが何でも舐めたがるのは理由がある。それは生まれたての赤ちゃんが土の上にいた原始的な動物と同じ状態にあり、なんでも舐めて腸の中を大腸菌だらけにしようとしているのです。なので、赤ちゃんが舐めたがるのを「ばっちい、ばっちい」といって阻止すると、その後赤ちゃんの腸の正常な発育を望めなくなる。

「しつけは3歳まで」の生物学的意味

しつけは3歳まで、と日本では昔から言われています。この考えは概ね正しいと私は思います。3歳までの「聖域」に現代社会の影響を持ち込んではいけないのです。人類発生当時から私たち人間とともに協調して生きてきた「腸内細菌」を大切にし、「知」のみ価値があるという考えを持ちこなないことが大切です。

英才教育についても触れていて、3歳までは子供は大自然に任せっきりでよく、知識の学習は4歳以降からが好ましいというのが著者の弁。3歳頃までの感性の素地の上での学習が成果に結び付くという考え方だ。感性が弱いと学習は画一的になり、独創性は出てこない。結果、攻撃性、衝動性、暴力性を高め凶悪行為に走らせることすらある。残忍性の抑止に一役かうおとぎ話についても詳しく書かれている。『本当は恐ろしいグリム童話』などがその例だ。

脳と腸の関係性や腸の知られざる働き、そして除菌が一般化した現代で、ある程度菌(腸内細菌等)がある生活も必要なのだとわかる書籍だった。脳科学がブームとなり脳について語られる書籍はあまたあるが、腸にスポットを当てた書籍は珍しいので暇なときにでも読んでみてほしい。