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「英国民はきわめて明白に、違う道を歩む決定をした。わが国をこの方向に導く新しい指導者が必要だ。船を立て直すために私にできることは何でもやるが、自分が船長になろうとすべきではない」(デービット・キャメロン前英首相、2016年6月24日午前の辞任記者会見)冷静な判断でEU残留を選ぶと直前まで思われていた英国民投票でまさかのEU離脱。世界を震撼させた迷走の行方を追う。

蓄積した不満のマグマ

「英国は偉大な国であり、雇用を破壊するEU官僚主義のコイルをのがれれば、かつてないほどに繁栄できる。離脱に投票した人々はこうした信念に動かされたのだ」(ボリス・ジョンソン前ロンドン市長=現外相=、国民投票での「離脱派勝利」を受けた英紙への寄稿で)

英国の国民はどうして、EUからの離脱という決断をしたのか?EUの中にいれば、国境を越えるときの煩わしい税関検査もなく、欧州全域でビジネスを展開できます。28カ国が一つとなった便利さは他の地域と比べようがない。

第一の分断としてあげられるのが地理的な分断で大まかに言うと北は残留、南は離脱が優勢だった。

第二の分断となるのが年齢による意識の差です。1万2000人余りの投票行動を追いかけた英調査機関のリポートは、年齢が若いほどEU残留を支持する割合が高く、高齢者ほど離脱支持が多いという傾向がある。特に18〜24歳では73%が残留に票を投じていて、65歳以上ではたった40%しか残留に賛成していない。高齢者ほど投票行動に熱心な人の割合が多いのも離脱の票が伸びた原因であろう。

第三の分断は、社会的、経済的名階層の格差です。会社勤めの事務職などのホワイトカラーは残留を支持し、逆に労働者階級のブルーカラーの人は離脱支持が多いという傾向で、収入や最終学歴が低くなるほど、離脱に票を投じる人が多いという傾向も。ロンドン五輪を成功に導いた人気のあるボリス・ジョンソン前ロンドン市長による離脱キャンペーン。ポピュリズム(大衆迎合)的な主張を繰り返している無責任な政党という批判を浴びながらも2014年の欧州議会選挙では保守、労働党の2大政党を抑え英国で第1党になったUKIPのファラージュ党首(当時)がもう一人の代表的な顔となった。

移民流入の拡大

英国では当時、政権の座にあったトニー・ブレア首相が「オープンドア政策」と銘打って、移行措置を入れずに中・東欧からの労働力流入を制限なく受け入れるという政策をとりました。

この政策は移民の大量流入という副産物を生み、経済水準が高く、最低賃金の格段に高い英国は、所得水準が低くEUの繁栄の恩恵にあずかりたい中・東欧の人々にとって格好の移住先となることに。2004年からの4年間で英国への移民の純流入は100万人にも達し、時同じくして起きた米リーマン・ブラザーズの破錠による世界金融危機のあおりを受けることとなった。金融センターであるロンドンを抱える英経済は不況に直面し、英国民の税金で成り立っている医療などの社会保障制度が大量の移民流入により混乱しかねない状況となる。「貧困移民」「給付目当てのツーリズム」と揶揄する言葉がメディアに取り上げられるようになり、移民がまるでただ乗りのように英国の手厚い制度の給付を受けている、または移民が増えたせいで手術や入院の順番待ちが長くなるといった指摘も出始めた。こうした不満の高まりもあって離脱への機運が高まることとなる。いずれにせよ、国民投票で離脱が決まったことによって、英国の将来は見通せなくなった。

迷えるEU〜統合加速か小休止か〜

「私たちは、欧州統合の方向性に人々が根本的な疑問を抱く事態に、日増しに直面している。それは英国だけでなくすべての加盟国にあてはまる。それだけに、私たちは欧州の市民に対し、自分たちの暮らしが良くなることにEUがどう貢献しているかをわかってもらえるよう努めなければならない。これはEU機関と加盟国の双方が抱えた課題だ」(アンゲラ・メルケル・ドイツ首相、英EU離脱の決定を受けた6月24日の声明)

EUはご存知の通り、28カ国が、権限の一部をEU機関という国を横断した組織に預けて統合体を作る、世界でも類を見ない仕組みを採用しています。擁する人口は5億人に達し、経済規模は約16兆ドル(2015年)で米国と肩を並べる。2004年にはポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア、リトアニア、ラトビア、エストニア、キプロス、スロベニア、マルタの10カ国。2007年にはブルガリア、ルーマニア。2013年にはクロアチアが加わるなどしてEUは拡大を続けています。EUの国会に当たる欧州議会、「EU首脳会議」とも言われる欧州理事会、EUの内閣に当たる行政執行機関の欧州委員会、EUサミットの分科会とも言えるEU理事会の四つの組織により運営される。

ヒト、モノ、サービス、資本の自由移動が可能なEUで最も影響力を持つのがドイツ続いてフランスやイタリアだが、両国とも硬直的な労働市場を抱えてその改革に有効な手段を打てないでいます。国内の政権の支持も弱く結果的にEUの中での力関係は大きく変わることとなる。ドイツの力が増し、フランス、イタリア、スペインといった国の力が下降気味に。これに英国の離脱が加われば、一層ドイツの影響力が突出することとなる。

後半では英EU離脱で考えられる複数のシナリオ(円満な離脱・決裂型の離脱・現状維持)を図解も用いて解説。英国のEU離脱に向けた様々な可能性を論じています。世界中を震撼させた英国のEU離脱。これからの手続きも一筋縄ではいかないことがわかる書籍だった。

英EU離脱の衝撃[Kindle版]

英EU離脱の衝撃[Kindle版]

  • 作者:菅野幹雄
  • 出版社:日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2016-11-04